イギリス発、十人十色の働き方

 

ボッティング大田 朋子(Tomoko Botting-Ota)

 

本コラムでは、働く女性にインタビューして仕事・起業のこと、ライフワークバランスのとりかた、リラックス法、時短の工夫といったお話をうかがいます。

 

第8回目は、英国でグラフィックデザイナーとして活躍されているコーツ祥子さんに登場して頂きます。愛猫のために作った首輪がきっかけで、猫の首輪のブランドを立ち上げ製造販売されていたお話や、就学に伴って一緒にいる時間が減ってくるお子さんとの時間を充実させたいと努められている姿が印象的でした。

 

・お仕事のことやキャリア形成に至る経緯を教えてください。

 

グラフィックデザイナーとして本やパンフレット、ポスターなどの印刷物のデザインや、ロゴやウェブサイトのデザインといったブランディングの仕事をしています。

 

グラフィックデザイナーになるまでの経緯を大まかに言うと、わたしは中学時代をマレーシアで過ごしたのですが、日本に帰国する時に芸術部のある高校を編入先に選びました。そして日本で教育大学に行き、大学時代は芸術部に属して日本画を専攻していました。一応学芸員の資格も持っています。

 

2002年、大学卒業そして就職を経て、英語を本格的に勉強するためとクリエイティブな環境に身を置くために、英国に留学しました。しばらくしてから、今後につながる道というか、自分の専門である芸術の分野で職につなげられることをと思いロンドンでアートカレッジに通い始めました。

 

アートカレッジを卒業した後にグラフィックデザイナーとしてロンドンで会社に勤務、その後フリーランスになり現在にいたります。フリーランスになった当初は元勤めていた会社から仕事を請け負う形でスタートし、そのうち友人の口コミなどを通じて仕事をするようになりました。

 

 

・猫用の首輪ブランド立ち上げの話を聞きたいです。

 

当時猫を飼っていたのですが色々探しても気に入る首輪が見つからなくて…、「それなら自分でデザインしよう!」と作ったのがきっかけです。

 

友達で自転車のグリップをデザインしている人がいるのですが、その人にふと猫の首輪をデザインしたいんだって話をしたときに興味を持ってくれて、レザーマニファクチャーを紹介してくれました。そのレザーマニファクチャーに私のデザインを持って会いに行き、そこの皮革素材を見せてもらって試作品を作ることから始めました。試行錯誤の結果、そのレザーマニュファクチャーがイタリアから取り寄せているタンニンなめし革と、私が探して日本から取り寄せた金具を使って製造が開始しました。

 

商品ができた後は自分で写真を撮って販売のためのサイトを作ったり、ロンドンの小物屋に飛び込みでマーケティングしながら販売先を探しました。いくつか大手のオンラインショップ会社が目をつけてくれて取引が始まったことがきっかけで、イギリス国内はもちろん、ニュージーランド、オーストラリア、フランス、スウェーデン、スイス、香港、シンガポールにも販売先が広がりました。サイドビジネスで始めた割には思った以上に成果が出たと思います。

 

・人気がでたにも関わらず、今は猫の首輪の製造は中止されているんですよね。

 

ストックを売り切るために最近まで販売は続けていたのですが、製造は今年始めに止めました。2010年に始めて2018年まで生産していたので8年間続けました。もっと続けて拡大する道もあったのかもしれませんが、ブランドを立ち上げて市場に乗せることは取引先やビジネスパートナーに指示を出したり、交渉したりしなければならないわけで、やってみてわかったんですが私は作るのが向いているというか、マーケティングに時間を費やしたり、全ての関係者の間に立って工面するのは多少なりともストレスでした。例えばマニュファクチャーで何か問題があると、ドミノ式に取引先やお客に迷惑がかかりますよね。自分の過失では無いのに責任はすべて自分にかかってくる、マネジメントって大変だなあって痛感しました。

 

・娘さんたちは今小学生と幼稚園、まだ今は手がかかりますが、数年後落ち着いたらまたブランドを立ち上げたいですか?

 

クリエイティブなことが好きなのでとりあえず本業の方は続けると思います。でも製造や販売まで自分でてがける事はもうしないと思います。娘たちも作ることが好きなので、家庭で趣味や遊び程度のことをして作りたい欲望を満たしたいと思っています。

 

サイドビジネスをしていたとき、子どもたちはまだ小さくて家に居たので、仕事と育児、文字通り隣合わせでやるしかありませんでした。そんななか、娘たちは家で商品を仕分けするのを手伝ってくれたり、郵便局にオーダーを持って行く時についてきてくれたり、と私にとっては面倒くさいことでもむしろやりたがってくれて、喜んでお手伝いしてくれました。猫の首輪ビジネスをやめると告げたときも娘たちは自分のことのように残念がっていましたねえ。

 

・最近のお仕事の様子を教えてください。

 

フリーランスなので自宅のオフィスで働いています。現在は主に、ある会社のインハウスデザイナーとして働いています。今までは週3回娘を預けて仕事していましたが、この9月から下の娘のレセプション(小学校 1 年生の前年にある就学前教育)が始まったので、週5日の時間が多少フレキシブルになりました。新しい生活リズムはまだ始まったばかりで何とも言えませんが、仕事や自分のことをする時間が増えるとイイですねえ…。

 

・仕事と家庭との両立にあたっての工夫があれば教えてください。

 

買い物はネットスーパーでしています。野菜や果物の鮮度も大切にしたいので週2回ペースで利用しています。注文するときにラフに献立を決めるのも週日の時短になっていると思います。あと料理も、費やせる時間は限られているけど家族に栄養があって美味しいものを作りたいので、そのために段取りを組んだり、自分なりの工夫はしています。定番ですが、野菜が苦手な娘たちに食べさせるために、野菜を細かく切ってとにかくいろんなものに混ぜたり、ボロネーゼソースも大量に作って数回に分けてアレンジしたりして。それにたくさん作る時には「スロークッカー」を使います。朝、材料を放り込んで準備しておいたら晩にはそれなりに美味しいソースやカセロールが出来るので、我が家ではスロークッカーが大活躍しています。

 

・最近されている「ごほうびボックス」について教えてください。

 

夏休みの間に子どもたちと「ごほうび箱」を作りました。いいことをしたり決めたことができたら「ご褒美」を一緒に楽しもうねというアイデアです。ご褒美とはいえ物をあげたりお金がかかる場所に行くとかではなくて、「一緒にスコーンを作る」といったように、一緒にやりたいことを子どもたちがいくつか紙に書きだして箱に入れたんです。それをご褒美の日にひいて一緒にしています。たいしたことをしているわけではないですが娘たちは大喜びだし、わたしも一緒に子どもとする意識が高まったおかげで満足度が高いしわが家にフィットしたアイデアでした。

 

・今後の目標などありますか?

 

9月から娘たちが二人とも学校に行くようになって新しいルーティーンは始まったばかり。とにかくたくさんこなさなければならない事があるのでまずはそれを一つずつしたいです。この数年間は育児で仕事の時間をセーブしていたので、仕事がもっとできるのも嬉しいですし、自分の時間も今までよりできると思うので楽しみです。ずっとやりたいと思っていたジムとチェロも始めることができました。チェロは上の娘が弾くので娘と一緒にできるのも嬉しいし、弾いている時間がストレス軽減にもなっています。

 

今後はますます子供といる時間が少なくなってくるので、共有する時間が減ることに伴って心の壁が出来ないように、というか、一緒に居る時間をいかに充実させるかが最大の課題です。自分がリフレッシュする事で、今までのピリピリママからニコニコママに少しでも近づく事が目標です。子供の成長ってあっという間ですから、側にいてくれている間はせめて楽しく過ごしたいですね。


ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota 

ライター&プロジェクトプロデューサー 

 

アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。 

現在イギリス・カンタベリー在住。 

メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。 

アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。 

 ⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/ 

 

ブログ https://tomokoota.wordpress.com/